うまく演じたつもりなのに、伝わらない。
感情も込めたし、稽古では褒められた。
でも本番になると、「もっとリアルに」「役の人物としてちゃんと生きて」と言われる。
そのたびに、なにが足りないのか分からなくて、心がモヤモヤする——。
実はこの違和感には、ちゃんと理由があります。
でも、どうすれば本当に伝わる演技ができるのかは、なかなか難しい課題ですよね。
なのでこの記事では、なぜ演技がうまく伝わらないのかをわかりやすく説明し、今日からすぐに使える“リアルに見える演技のコツ”を詳しくお伝えします。
理論だけじゃなく、プロの現場で実際に使われている方法も紹介するので、読み終わる頃には「自分にもできそう」と感じられるはずです。
迫真の演技って何が違う?リアルに伝わる演技とは

気持ちを込めてリアルに演じているつもりなのに、観る人の心に響かない。
なぜか伝わらず、もどかしさだけが残る。
この違和感の正体を知らないままだと、“伝わる演技”にはたどり着けません。
「迫真の演技」とはどんな演技を指すのか
“迫真”とは、真に迫る。
つまり「これは演技じゃない」と観客に錯覚させるほどのリアリティと緊張感を持った演技です。
- 呼吸や視線、沈黙までが説得力を持つ
- 感情の裏に「生きた背景」が感じられる
- セリフが台本から出てきた言葉に見えない
例として、映画『新聞記者』(2019)の松坂桃李の演技は、「感情の葛藤が静かな緊張感として伝わってくる」と観客やメディアに高く評価されました。
🖊️出典:
Cinemacafe『新聞記者』2億円突破!キャストが秀逸と絶賛
演技が“上手い”ことよりも、「その人の人生が見えること」の方が、観る人の心に強く残ります。
演技力と表現力の違いを整理してみる

- 演技力:
状況・感情の理解、関係性を体現する力 - 表現力:
声量、表情、身振りなど“目に見える表現”の巧さ
両方大事ですが、迫真の演技に必要なのは「演技力」=“内面のリアリティ”です。
項目 | 表現力 | 演技力 |
---|---|---|
声・動き | 大きくて目立つ | 小さくても意味がある |
感情表現 | 怒る・泣くなどわかりやすい | 感情の裏にある動機を伝える |
セリフ | 流暢に話すこと | 反応として自然に言葉が出る |
いくら感情を大きく表現しても、「なぜその感情になったのか」そこまでの流れと過程が伝わらなければ、観る人には“嘘っぽい演技”に見えてしまいます。
逆に感情を抑えていても、「何を感じているのか」が観客に伝わると、説得力が増して強く心に残るんです。
「リアリティ」だけでは足りない理由
“日常にリアル”と“演技の世界でのリアル”は、実は全然違います。
それが、いちばん難しいところです。
たとえば日常では自然なふるまいでも、演技の中ではこう見えてしまうことがあります:
- 日常と同じだけの「間」をあける → 舞台では「間延びしてる」と感じられてしまう(一歩間違えば「セリフ忘れたのかな?」と思われることも)
- 日常のリアルな反応をそのまま再現しても → 小さい反応すぎて、舞台では「演技していない」ように見えることがある
- 日常と同じボリュームで話しても → 空間や場所の状況、設定などによって声が全然聞こえない時がある
もちろん、映像と舞台では全然違うし、空間の広さや設定などによっても全然違います。
つまり、その時々の状況で求められる“リアル”は変わるということです。
演技で大切なのは、現実をそのまま再現することではなく、視聴者や観客に伝わるように、その瞬間の一番良い“見せ方”を意識すること。
リアルに見せるには、演じる側が「どう伝えるか」という意識と視点が必要なんです。
なぜ「気持ちを込めているのに伝わらない」のか?

- ちゃんと心は動いてる(つもり?)なのに、「伝わらない」と言われる。
- 頑張って気持ちを込めても、「わざとらしい」と言われる。
- 泣くシーンで本当に涙まで流したのに、「なんか嘘っぽい」と思われる。
これは、あなたの演技が下手だからという理由ではないかもしれません。
頭の中のイメージを形にする技術が追いついていないだけの場合があります。
もしくは、最初のイメージ能力がまだ足りていないか。
感情を“出す”ことが目的になっていないか
演技中、「泣く」「怒る」「動揺する」など、表面的な感情だけに集中していませんか?
それは、「感情のゴール」だけを見せようと意識している状態です。
- 泣きのシーンで、涙を出すことが演技の目的になる
- 声を張り上げて怒鳴れば感情が伝わると思ってしまう
- 自分の感情ばかり気にして、相手が見えなくなる
演技で大事なのは、「ゴールにたどり着くまでの過程を見せること」
そこにドラマやストーリーが生まれ、視聴者や観客は感情移入します。
つまり、感情は瞬間瞬間の“表現”じゃなくて、“結果”として生まれるべきものなんです。
そうすれば、無理に泣こうとしなくても、実際に出た涙の量が少なくても、感情移入できるだけのドラマやストーリーが見えていれば、観ている側の心にちゃんと届くんです。

自分の演技が「わざとらしく」見える構造
がんばってるのに“演技っぽく”見える。
そう思われてしまう一つの大きな理由があります。
それは、段取りが見えてしまっていること。
俗に言う「段取り芝居」という予定調和な演技のことです。
- 「ここで泣く」「ここで怒る」と事前に決めすぎている
- 事前に決めた段取りを追うだけの演技になっている
- 表情や間が、毎回同じパターンになっている
- 決めた芝居に集中しすぎて、相手の芝居を見れていない
こうなると、観客からは「役」としてではなく、「その役をやってる役者」が見えてしまう。
ここで大事なのは、段取りを追いかけることではなく、相手の言葉や状況にちゃんと瞬間瞬間で“反応する”ことです。
その空間に“本当に生きている”こと。
それが、わざとらしくなく、「今ここでリアルに生まれる感情」に変わる鍵になります。
表情・セリフ・間が“予定調和”になる落とし穴

演技に慣れてくると、だんだんと自分流の“型”ができてきます。
特に何度も同じシーンを練習していると、同じパターンばかりになってしまう。
たとえば、
- このセリフの前で一瞬黙る
- この言葉の後にゆっくり顔を上げる
- 最後に深くうなずいて締める
それがピタッとハマる場合もあれば、違和感を感じる場合もある。
なぜか?
それは、最初は感情に動かされていたはずなのに、いつの間にか“この流れでやればうまく見える”という段取りだけで演技してしまっているからです。
本来は相手役のセリフのトーンの微妙な違いや、タイミングや間の違いなどで、自分の演技も微妙に違ってくるのが当たり前なんです。
なのに、毎回毎回、同じようにキレイに段取りを追ってしまう。
観客にはこうした「決められた演技」は見抜かれます。
なぜなら、人間の感情って本来もっと不安定で、雑で、計算なんてできないから。
- 泣きたいのに笑ってしまう
- 言いたいのに言葉が詰まる
- 間をとったつもりが、沈黙が耐えきれなくてつい言葉をかぶせてしまう
こうした“予定通りじゃない動き”にこそ、観る人はリアルを感じるんです。
だからこそ、演技には「この順番でこうやれば正解」なんてものは存在しません。
その瞬間に何を感じて、どう反応するか。
何度も言いますが、“その場でちゃんと生きる”ことでしか、生まれないリアリティがあるんです。
「気持ちを込めたのに…」の違和感が起きる仕組み

本気で気持ちを込めたのに、「伝わらない」と言われたり、自分では感情が動いたつもりだったのに、「なんか薄い」と感じられてしまった。
こういった違和感には、ちゃんと理由があります。
それは、自分が“感じていること”と、観客が“受け取っていること”は、まったく別物だからです。
俳優は、演じているその瞬間、内側の感情に深く入り込んでいます。
でも観客が受け取れるのは、表情、声、言葉、間、動き——“外側に出たもの”だけ。
だから、厳しいようですがあなたの内面は関係ないんです。
あなたが「ちゃんと気持ちを込めたつもり」は、イコール「相手に伝わった」にはならない。
演技をちゃんと“届ける”ためには、自分が感じていることを、どう外に見せるか——その“伝え方”に重点を置くことが不可欠です。
同じ「感情」でも、それを「どのような表現で」「どのくらい表に出すのか」で伝わり方は全く違います。
たとえば「怒りの感情」でも、ただ大声で叫ぶよりも、笑いながら、それでもどこか怒りが滲み出ている方がリアルに「怒りの感情」が伝わってくる時がありますよね。
そのことに気づけた瞬間から、演技は変わりはじめます。
どうすれば“本当に伝わる演技”になるのか?

「伝わらない壁」を超えるには、意識と練習法を変える必要があります。
ここでは、“伝わる演技”のための心構えとトレーニングを段階的に紹介します。
「意識の方向」を変えるだけでリアルになる
演技中、「自分のセリフ」や「感情の出し方」だけに意識が向いていませんか?
でも本当に迫真の演技をするには、、相手役にどう反応するかです。
- 自分の見え方ではなく、相手の言葉や表情からの影響を意識する
- どう演じるかよりも、「今ここで何が起こっているか」に集中する
この感覚が身につくと、セリフが“リアルな反応”として自然に口から出るようになります。
セリフに頼るのではなく、“その場で感じる素の感情として言葉が生まれる”演技に変わっていきます。
相手役への“反応”が演技の核になる理由

演技の本質は“リアルな反応”です。
“今その場で相手から受け取ったもの”にどう反応するか。
そこにこそ、リアルな演技の鍵があります。
- 緊張した視線にふっと固まる
- 怒られた瞬間に固まる
- 不意の一言に息を飲む
- 視線に圧を感じて目を逸らす
こうした反応が自然に出るからこそ、観客は「その人が本当にそこで生きている」と感じるんです。
リアクションから始める練習法(セリフ練習編)
セリフを“覚える”のではなく、“反応から言葉が出るようにする”のがコツ。
🔽 練習ステップ:
- 相手役のセリフだけを聞いて、反応してみる
- 自然に感じた気持ちに、自分の言葉と動きを乗せる
- 台本に書かれているからではなく“自然にその言葉が言いたくなる”までセリフを言わない
これだけで、セリフが生きた言葉になり、演技が変わります。
自然な演技を生む「エチュード」の活用法

「自然なリアクションを鍛える」ために効果的なのが、即興演技=エチュードです。
設定やセリフが決まっていない中で、状況と相手の変化にその場で対応することで、自分でも予想できなかったリアクションが自然に出てきます。
🔽 代表的なシチュエーション例:
- 無人のカフェで恋人と別れ話をする
- 上司と部下の関係で、隠しごとを探る
- ずっと待っていた人が来ないまま時間が過ぎる夜
こうした“制限付きの自由”の中で演技することで、演技に必要な「柔軟な感覚」や「他人とつながる感性」が養われます。
役者仲間とやってみると面白いですよ。
現場で評価された俳優たちの迫真の演技体験談
どんなに凄いプロの俳優たちも、最初から“迫真の演技”ができていたわけではありません。
現場で「リアルだ」「刺さった」と評価される演技は、例外なく“反応の強さ”に裏付けられています。
🎤 藤原竜也さん(俳優)
共演した松山ケンイチさんは、「竜也さんは、セリフじゃなくて“握り拳”が飛んでくる感じがする」と語っています。
藤原さんはセリフではなく、その場の空気と相手の反応に体ごと向き合っているからこそ、観客に“圧”が伝わるんです。
まさに“鬼気迫る演技”と評されるゆえんです。
🖊️出典:
👉 oricon|藤原竜也×松山ケンイチが語る演技のリアル
🎤 満島ひかりさん(女優)
『カルテット』での演技は、「作り込まない」「感情に頼らない」ことを意識していたと本人が語ります。
演出家も、「彼女は、“その場の空気に溶けてる”ような芝居をする」と絶賛。
計算された演技ではなく、“感じて反応する力”が評価されているんですね。
演技が演技に見えない瞬間は、こうした“反応の積み重ね”から生まれています。
🖊️出典:
👉 Real Sound|満島ひかりの役作りは極めて知的だ
伝わる演技は、“自分が頑張って出す”のではなく、“状況や相手と関わる中で自然に出てしまう”。
その感覚をつかむことが、迫真の演技への第一歩です。
迫真の演技を目指す人に役立つトレーニング・教材とは?

自分の演技がもっと人の心に届いてほしい。
そんな願いを持つなら、どんな練習を選ぶかが何より大切です。
ここでは、実際に効果があったと評判の高いトレーニング法やツール、環境の選び方を紹介します。
実践向きの演技メソッド・ワークショップ紹介
スタニスラフスキー・システム(体験型演技)
「もし自分がその場にいたら?」と想像して感情を作る方法。
“感情の必然性”を生むための王道メソッドです。
🖊️出典:
👉 Wikipedia|スタニスラフスキー・システム
フィルムアクターズラボ|映像演技ワークショップ
映画撮影を想定した少人数の即興ワークショップ。
台本に頼らず“今この瞬間に生きる反応”を磨ける場として定評があります。
🖊️出典:
👉 Cineast|フィルムアクターズラボ
棒読み改善・感情解放に役立つツールやレッスン
🗣️ ChatGPTの音声モードを活用したセリフ練習法
ChatGPTを「相手役」として使い、セリフを交互に読み合うだけで自然なやりとりの中でセリフが磨けます。
使い方の一例:
- ChatGPTにセリフを送ると、音声モードで自然な抑揚で返答してくれる
- 自分の言い回しと比べて、ニュアンス・トーン・間の違いを体感できる
- 「もっと怒りを抑えたトーンで返して」など、演出指示もできる
- リアルタイムでフィードバックを得ながら、自然な反応型の演技が身につく
台本を読み込むだけの“独り言練習”では見えにくかった課題が、相手の反応を通じてクリアになります。

📝 感情解放ジャーナリングのやり方
感情の“奥行き”を理解し、自然な演技につなげるセルフワークです。
- 今日感じた感情を、単語で3つ書き出す(例:「焦り」「安心」「悔しさ」)
- その感情が生まれた理由を具体的に書く(できれば状況や思考もセットで)
- 感情同士の流れを、矢印でつなぐ(例:「焦り→混乱→言葉が詰まった」)
- それを演技に活かすならどう表現するか、1行だけ書いてみる
感情を「動き」として捉え直すクセがつき、表現が自然に変わっていきます。
🎓 感情表現ワークショップ
先ほど紹介したアクターズラボなど、演劇ワークショップはさまざま開催されています。
即興演技・エチュードを通して、自分の感情の動きを“感じて表現する”ことに慣れていきます。
講師のフィードバックを通じて、「自分では気づけなかった癖」が見えるようになるのも大きな価値です。
迫真の演技を磨くなら、環境選びも重要です
迫真の演技を日常的に磨きたいなら、「どこで、誰と練習するか、どんなアドバイスをもらえるか」が重要になります。

🔽 良い環境の共通点
- 少人数制で、即興練習と具体的なアドバイスをセットで繰り返せる
- 緊張感ある場(公開実習・撮影本番など)
- 演技の評価軸が「表情」や「感情表現」ではなく、「状況と行動」にある
こうした場所に身を置くことで、“たまたまうまくいった段取り芝居”ではなく、その場で生きる“迫真の演技”が身についていきます。
どれも特別な人だけの方法ではありません。
あなたにも必ずできることです。
まずは今日、自分の感情をひとつ書き出すことからでいい。
小さな一歩が、観る人の心を動かす演技のスタートになります。
「リアルが伝わる演技」は、もう遠い理想じゃありません。
あなたの中にある“動く感情”に、ちゃんと光を当ててあげればいいんです。
あなたの演技は、これからもっと届くようになります。
焦らず、でも確実に。